
アルメニアが実効支配するアゼルバイジャンのナゴルノ・カラバフ地域をめぐる紛争が続くなか、記者が同地域の中心都市ステパナケルトに入った。10日未明にロシアが仲介して停戦合意が発表された。ただ、これまで1カ月で3度の停戦合意が崩壊しており、予断を許さない状況が続いている。
記者がステパナケルトに入ったのは今月2日。今回の紛争で同地に入るのは日本メディアとして初めてだとみられる。ステパナケルトは、アルメニアの支援で一方的に独立を宣言した「ナゴルノ・カラバフ(アルツァフ)共和国」の「首都」だ。街路には、ひっきりなしに爆発音が鳴り響いていた。多くの住民が街を離れ、街には歩行者の姿はほとんどない。攻撃で市内各地の住宅が倒壊し、炎上した車が放置されていた。
街の中心部の共和国産婦人科病院は先月末の空爆で破壊され、一部が崩れかけていた。診察は地下に設けられた臨時の診療室で続けられていた。妊娠27週という妊婦が1人、ベッドに横たわる。診察していた産婦人科長のバディク・オシポフ医師(49)は「攻撃を受けた時は、建物全体が崩壊したかと思う振動だった。水道が破裂して、地下が水浸しになった。近くに軍事施設はない。なぜ狙われたのか」と嘆いた。
攻撃を見越して、病院機能は10月3日から地下室に移していた。そのため、数人が軽いけがをしただけで、死者は出なかった。一つのベッドは地上に開いた窓の下にあり、粉々になったガラスの直撃を受けたが、偶然空いていた。地上の病室はがれきの処理も終わらず、診察は地下で続けるという。
市内の住宅街にある青空市場の周辺も10月末から11月にかけて3日連続で攻撃を受けた。爆弾の一つは市場の中心に落下し、けが人が出たという。大部分の店が閉まる中、営業を続ける精肉店の経営者ボリス・ネルシェシアンさん(64)は「2日前の朝、店を開けようと市場の中に入ったとたん爆発した。ここが集中して狙われている」。
市場近くの民家3軒も大破していた。住人は避難して無事だった。近所に住む鮮魚店経営のガリーナ・マルラロシアンさん(50)は「周囲はみんな避難したが、息子が兵士として前線に出ている。私はここから逃げない。街にとどまる責任があると思っている」と話した。庭に実る柿で干し柿をつくり、息子を待つという。
「わざと住民を標的にしている」
被害調査を続ける地元公的機関「人権オンブズマン」のアルタク・ベグラリヤン氏(32)によると、ナゴルノ・カラバフの人口約14万7千人のうち、9万人が難民や避難民として住居を離れたという。「人々に恐怖を与え、戦う意志をそぐために、わざと住民を標的にしている」とアゼルバイジャン側を非難した。
ナゴルノ・カラバフ地域では、多数派のアルメニア系住民が1991年に独立を宣言し、支援するアルメニア軍とアゼルバイジャン軍との本格的戦闘に発展。94年に停戦したが、今年9月末に当時以来の大規模衝突が再び始まった。1カ月余りで3度も停戦合意がなされたが失敗した。双方の攻撃は多数の民間人を巻き込み、死者は5千人を超えるとの指摘もある。軍事力に勝るアゼルバイジャンは、ナゴルノ・カラバフ地域を連日ミサイルやドローンなどで攻撃していた。
もっとも、アゼルバイジャン側でも、アルメニア側から市民が攻撃を受けたとの報道が多い。実際の被害と、双方のプロパガンダによる誇張とがない交ぜになり、事実の把握は難しい。
ナゴルノ・カラバフは全域が険しい山岳地帯で、ソ連崩壊前後から領有を巡る対立が続く。アルメニア、アゼルバイジャン両国に影響力を持つロシア、両国と国境を接するイラン、アゼルバイジャンと緊密な関係を持つトルコといった地域大国の利害が絡み、対立は複雑化している。(ステパナケルト=国末憲人)
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