<毒殺されかけ、ロシア帰国後に逮捕された反政府活動家ナワリヌイの釈放を求めて、何万もの市民が抗議デモを行っている。しかし、それがプーチン独裁の終焉につながる可能性は極めて低い>
厳寒のロシアで、何万もの市民が街頭に繰り出した。去る1月23日のこと、反政府派の著名活動家アレクセイ・ナワリヌイの即時釈放を求める抗議デモだった。
ナワリヌイは5カ月前、化学兵器に使われる神経剤ノビチョクで毒殺されかけ、ドイツで治療を受けていたが、1月17日に帰国した途端に逮捕された。今は首都モスクワ市内に収監されており、この先も不当な裁判で長期にわたり拘束が続く可能性がある。
ナワリヌイは自ら設立した「反腐敗財団」を通じて政財界の不正を次々と暴き、政権批判の旗を振ってきた。彼の逮捕後、同財団はウラジーミル・プーチン大統領の所有とされる豪邸の動画をネット上で公開した。その直前にも腐敗の根源だとするロシア国籍者8人の名前を公表し、経済制裁の対象に加えるよう西側諸国に求めている。
プーチンとその取り巻きが私腹を肥やし、そのせいで苦しい生活を強いられている国民に不満がたまっているのは周知の事実。だからこそ大規模な街頭デモも起きる。
しかし、それが民主的な革命やプーチン独裁の終焉につながると思うのは間違いだ。勇気あるナワリヌイの行動が国民のプーチン離れを加速する効果は期待できるが、直ちに体制転覆につながるとは思えない。なぜか。ナワリヌイは庶民レベルでこそ人気があるが、ロシア社会のエリート層には全国レベルでも地域レベルでも支持されていないからだ。そもそもナワリヌイの腐敗撲滅運動自体が、エリート層を標的にしている。
がんじがらめの体制
民主的革命を成就させるには、エリート層の内部にも仲間が必要だ。ロシアの歴史、そしてジョージアやウクライナといった周辺諸国における最近の民主革命を見れば分かる。2003年のジョージア、2014年のウクライナにおける政権交代は、いずれも体制内の亀裂に助けられていた。
ジョージアでは、当時の大統領エドアルド・シェワルナゼの求心力に衰えが見え、与党の幹部多数が野党にくら替えしていた。その代表格が2001年まで司法相だったミハイル・サーカシビリで、デモ隊による議会突入の先頭に立った。ウクライナも似たようなもので、当時の大統領ビクトル・ヤヌコビッチはエリート層から見放されていた。
そしてシェワルナゼもヤヌコビッチも、頼みの綱となる強力な治安部隊を持っていなかった。どちらの国の軍隊も徴兵制で、お世辞にも精鋭とは言えなかった。そして政治に口を出さないのが自分たちの生きる道と心得ていた。
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