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「新型コロナワクチンの接種後に報告される奇妙な血栓症」に対する専門家の意見は? - GIGAZINE


新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックを抑えるためには世界中の人々がワクチンを接種する必要があり、一部の国では本格的に国民へのワクチン接種が進められています。ところが、「アストラゼネカ製のワクチンを接種した後に血栓ができる」という副作用が疑われており、研究者らはワクチンと血栓の関連性について調査を進めています。

How could a COVID vaccine cause blood clots? Scientists race to investigate
https://www.nature.com/articles/d41586-021-00940-0

アストラゼネカ製のワクチンについては「接種後に血栓が発生する」という副作用が疑われる事例が報告されており、EUでは多くの国が一時的に接種を中断しています。世界保健機関(WHO)は2021年3月17日の声明で「現時点では、WHOはアストラゼネカ製ワクチンの利点はリスクを上回っていると考えており、予防接種の継続を推奨しています」と述べ、アストラゼネカ製ワクチンの利用継続を要請しました。

WHOがアストラゼネカ製ワクチンの利用継続を各国に要請、「メリットがリスクを上回る」と指摘 - GIGAZINE


しかし、その後もアストラゼネカ製ワクチンへの懸念は消え去っておらず、イギリスでは17歳以下を対象にした臨床試験が停止されたほか、4月にはデンマークが接種を完全に中止するとしています。そんな中、研究者らは本当にアストラゼネカ製ワクチンが血栓症を引き起こしているのかどうか、もしそうならば血栓が発生するメカニズムはどうなっているのかについて研究しています。

欧州医薬品庁(EMA)は数週間のわたる調査の後、4月7日に「アストラゼネカ製ワクチンと血栓が関連している可能性がある」と発表。また、医学誌のニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンには、アストラゼネカ製ワクチンと血栓症について調査した複数の研究掲載されています。アストラゼネカ製ワクチンとの関連が疑われる血栓症は非常にまれな事例であり、EMAはレポートの中で「COVID-19の予防におけるワクチンの全体的な利点は副作用のリスクを上回ります」と述べています。

また、ウィーン医科大学の血液学者であるSabine Eichinger氏は、「もちろん仮説は存在します。ウイルスベクターか、ワクチンの添加物か、製造プロセスの何かしらが原因なのか……それはわかりません」とコメント。


Eichinger氏は、アストラゼネカ製ワクチンの接種後に発生する血栓症において、「血液を凝固させる血小板が減少する一方で血小板を活性化させる抗体が生成されて血液凝固が促される」という奇妙な現象が見られることや、一般的に血栓ができやすい足ではなく脳や腹部にも血栓が現れることに気付きました。これは、抗凝血薬であるヘパリンを投与された人がまれに発症する「ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)」と類似しているとのこと。

ヘパリンは血栓症や播種性血管内凝固症候群といった病気の治療に用いられ、血液の凝固を抑制する薬です。HITはヘパリンが投与された際の免疫反応によって血栓症となってしまう病気であり、EMAが収集したアストラゼネカ製ワクチンの接種後に血栓症を発症した人々の事例の中には、ヘパリンを投与されていないのにHITと同じ特徴を持つものがあったそうです。


EMAはアストラゼネカに対し、血液凝固に対するワクチンの効果を測定する実験や臨床試験からのデータを評価して、血栓症の危険因子に関する追加の情報を収集するように求めています。記事作成時点では、アストラゼネカ製ワクチンの接種後に起きる血栓症は男性よりも女性に多く、特に60歳未満の女性で多く見られると報告されていますが、EMAは女性のリスクが高いと結論づけていません。これは、多くの国が「医療従事者に対して優先的にワクチンを接種する」という方針を採用しているため、アストラゼネカ製ワクチンの接種を受けた人には男性より女性が多く含まれているからだとのこと。

ワクチン接種に伴う血栓症について調べるため、EMAはオランダのエラスムス・ロッテルダム大学やユトレヒト大学が主導する学術コンソーシアムを支援しています。コンソーシアムのプロジェクトでは、アストラゼネカ製ワクチンの接種後に血栓ができた人々の潜在的な症例を探すほか、ワクチンの投与量と血栓症のリスクについて調べる実験なども実施するそうです。

また、コンソーシアムの研究チームはアストラゼネカ製ワクチンが引き起こす問題が一部の集団に限定されたものなのか、それとも広範囲に影響するのかどうかも調査しています。エラスムス・ロッテルダム大学のウイルス学者であるEric C. M. van Gorp氏は、「西ヨーロッパで私たちが見つけたものが、自動的に南アメリカや他の人口でも正しいわけではありません」と述べ、地域などの違いが血栓症にも影響する可能性もあると指摘しています。

そして、van Gorp氏の研究チームが重大な焦点としているのが、「アストラゼネカ製ワクチンと血栓症の関連が本当に存在するのかどうか」です。すでに大勢の人々がワクチン接種を行っているため、ワクチンの副作用と疑われている事象が本当にワクチンによって引き起こされたのかどうかを確かめるのは非常に難しい課題となります。

ボストン州のブリガム・アンド・ウィメンズ病院の心臓専門医であるBehnood Bikdeli氏は、「データを収集する中で血栓症について警戒するのはいいことですが、問題事例の絶対数や発生率は驚くほど低いものです」とコメント。ワクチンと血栓症についての関連性が取り沙汰されるにつれ、ワクチン接種を受けていない人と比較してワクチン接種を受けた人の報告率が高くなり、結果として全体的な発症率を見誤る可能性もあるとのこと。


カナダ・マックマスター大学の血液学者であるJohn Kelton氏は、40年にわたってHITを研究してきた人物です。HITにおける血小板の活性化は連鎖的だそうで、Kelton氏は「血小板が活性化されるのは火口にマッチを置くようなものです。より多くの血小板を動員し、活性化されると爆発して血栓を生成します。HITは山火事のようなものであり、自己永続化します」と述べています。

過去には、病原体の感染や膝の手術、ヘパリンと類似した薬剤による治療など、非常にまれであるもののヘパリン治療を行っていない患者でHITが発症する事例も報告されているとのこと。Kelton氏の研究チームは、ワクチン接種者の体でHITに似た症状を引き起こす要因を特定するために取り組んでいますが、患者のサンプル数が少なく、優れた動物モデルも存在しないため、研究するのが難しいそうです。

これらの研究が、免疫系と血液凝固との関係にさらなる注目を集める結果となり、さらなるワクチン開発につながる可能性があるとvan Gorp氏は主張。「私たちは、やがて新たな新型コロナウイルスの変異株を入手し、新たなワクチンを開発することになるでしょう。私たちは将来のために答えが必要です」と述べました。

なお、最も広く接種が行われているファイザーやモデルナ製のワクチンは人工的に複製したmRNAを用いる「mRNAワクチン」ですが、アストラゼネカ製ワクチンは人体に無害な改変ウイルス(ベクターウイルス)を使って新型コロナウイルスの遺伝子を送達する「ベクターウイルスワクチン」です。アストラゼネカ製ワクチンと同様にベクターウイルスワクチンであるジョンソン・エンド・ジョンソン製ワクチンでも、接種後に血栓症となった事例が複数確認されており、アメリカ当局はジョンソン・エンド・ジョンソン製ワクチンの接種を一時停止するように勧告しています。

米 J&Jワクチン接種の一時停止求める “血栓症”の複数報告で | 新型コロナ ワクチン(世界) | NHKニュース
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210414/k10012973101000.html

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