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ワクチン接種後の大江千里が見たニューヨークの現在地 - Newsweekjapan

ニューヨークではレストランの屋外席が定番に(筆者撮影) SENRI OE

<ワクチン接種が進むニューヨークは7月1日の経済活動全面再開に向け、着実に開花しつつある。コロナ「戦争」を生き延びたこの街の今を大江千里がリポート>

蕾が膨らむ。ニューヨークでは5月7日より、レストランの屋内席の収容人数制限が75%に引き上げられる。ジムは5月15日より50%に引き上げ。4月29日より、16歳以上の全ての市民が1回目のワクチンを予約なしで接種できるようになった。

米疾病対策センター(CDC)は4月27日、マスク着用に関するガイドラインを更新し、ワクチン接種完了者(2回接種ワクチンの場合は2回目、1回接種ワクチンの場合は接種から2週間以上経過している者)は、同一世帯者との散歩や、屋外での小規模な集まり、屋外飲食がマスクをしないで可能になった(編集部注:5月13日、CDCはガイドラインをさらに変更し、ワクチン接種者は屋内外でのマスク着用義務を解除)。

2月10日に2回目のワクチン接種を完了した僕のところに、もう2クール目の接種の知らせが来た。副反応がひどかったので主治医に相談すると、医療の現場では「まだ1クール目の効果がどれほどか実証されてないので焦らなくていい」という見解だ。病院はのんびりしたものでPCR検査もワクチン接種も一般業務に近いノリで行われる。

街の様子はパンデミック前に戻りつつある。多くの店が既に廃業しており一見歯が抜けたような景色だが、人々はにこやかに食事をしたり街に繰り出したりするようになった。

ごった返したバスや地下鉄では隣に平気で人が座る。明らかに6フィート以内。ヤバイなと思いながら、今さら席を立つのもなとそのままいることもある。感染したとしてもひどくはならないという安心感からか、ジャッジも緩くなった。

「戦争」から日常へ

以前ほどの切迫感が無くなったのは、地獄を見たニューヨーカーたちがこの場合はリスクがあるなど、経験値である程度リスキーな生活をコントロールできるようになってきたからかもしれない。

昨年は、戦争だった。人がバタバタ死んだ。コロナに対して防戦一方だったところに、やっとワクチンという武器を手に入れた。ニューヨーカーが共に戦い、やっと「戦闘休止」になり、2度とあのトンネルへ戻らないという決意、それが「事実」をしっかり見極めることであり、マスク着用である。

僕はマスクを1枚の時と2枚の時を状況により変える。目の洗浄や鼻うがいを前より行う。明らかに公共の場で咳をする人が増えているし、この前もマスク越しに「ビールですね。ピルスナー」と言った店員のピを発声した時の唾がマスクを超え僕のおでこに届いた。

何が安全かは誰にもわからない。自分の命と他人の命、守るのは自分たちしかいない。人への敬意、連帯感が社会の根底に必要だとその規範をひたすら探す。

そんな中、僕は「パンデミック宅録ジャズ」を仕上げようと軽いキーボードとPCを抱え家中移動して11曲を完成させた。たった今仮ミックスが上がったので7月の発売には間に合う。

ビル・デブラシオ市長は、7月1日にニューヨークの経済活動を完全に開くと発表。これを書いている最中にもブロードウェイが9月に100%のお客を入れて再開することがアナウンスされた。蕾のような気持ちがほんの少しだけ膨らんできたのを肌で感じる。

<本誌5月18日号掲載>

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