[ソウル 16日 ロイター] - パク・ギュンスンさん(71)は毎日、花や書類、小包などをソウル各地に配達している。地下鉄に無料で乗ることができる高齢者の間では、人気の仕事だ。
「シルバー・デリバリー」と呼ばれるこの仕事で、パクさんは多い月で70万ウォン(550ドル)を稼ぐ。ソウルにはシルバー・デリバリーを手がける企業が約20社ある。
「楽しいし健康にもいい」とパクさん。「ただ、正直に言うと、地下鉄料金がタダでなければこの仕事はやらない。手元にいくらも残らないからね」と話す。
韓国全土では約40年前からこうした制度が実施されており、高齢者が活発に動き回れるようにするための福祉と位置づけられてきた。しかし、人口の高齢化が急速に進み、地下鉄の運営コストが膨らむ今、この制度が政治的な争点に浮上している。
高齢者向け無料制度を全面廃止すべきだという声こそ聞かれないが、地下鉄を運営する一部の都市は、中央政府がコストを一部負担してくれなければ大幅な料金値上げか、無料乗車対象年齢の引き上げを実施すると迫っている。財務省は負担に断固反対の姿勢だ。
韓国では高齢者向け福祉コストが急増し、現在60歳となっている退職年齢の引き上げや国の年金制度の持続性確保を巡る議論が活発化。地下鉄料金を巡る論争は、そうした中で起こっている。
この問題では尹錫悦大統領も難しい立場に追い込まれている。尹氏は昨年5月、財政再建を掲げて就任した一方で、主要支持層の一角が高齢者層だ。
足元で消費者は、24年ぶりの高インフレと公共料金の大幅値上げに不満を募らせている。韓国経済は昨年10─12月期に2年強ぶりのマイナス成長に陥った。
尹氏の与党「国民の力」からは、地下鉄無料制度を少しでも縮小すれば来年の議会選挙に不利に働くと警告する声が上がっている。国民の力はこの選挙で議会過半数を奪取し、尹氏が改革を進めやすくする態勢を確保したい意向だ。
だが、無料乗車問題は、時を経るにつれて深刻化することが避けられない。
韓国は人口5100万人の18%以上を65歳以上が占める。統計局によると、この割合は2035年に30%、50年には40%に達する見通しだ。
首都圏での65歳以上の住民は約3700万人にのぼる。無料乗車の回数は昨年2億3300万回を超え、ソウル地下鉄のコストは約3150億ウォン(2億5000万ドル)と、同社の負債の30%相当に達した。
この状況に対処するため、ソウル市は昨年12月、2015年以来初めての地下鉄料金引き上計画を発表し、値上げ率は最大30%になると明らかにした。一方で、高齢者向け無料乗車制度は維持する方針だ。
呉世勲市長は先週の記者会見で、料金引き上げ幅を最小限にとどめるには「少なくとも一部は国の助成」が必要になると強調。高齢者向け無料乗車制度は1980年代初頭、当時の全斗煥大統領の軍事独裁政権下で導入されたと指摘した。
財務省側は、国が地下鉄システムの建設・改善に資金を拠出しており、運営コストには各市が対処すべきだと主張。バン・キスン副大臣はロイターに「ソウルの場合、実は国よりも財政状態がはるかに強固だ。そうした状況を踏まえると、国にこの責任を取れと言うのは少し行き過ぎだろう」と語った。
韓国南東部の大都市、大邱は最近、地下鉄無料乗車の対象年齢を徐々に引き上げ、最終的に70歳以上とする案を検討すると表明。大田市も同様の措置を検討している。
ギャラップが先週公表した世論調査結果では、韓国国民の60%が地下鉄無料乗車を含む高齢者向け優遇制度の対象年齢を70歳以上に引き上げることを支持している。反対は34%だった。
大統領府はロイターのコメント要請に対し、地方政府が対象年齢を変える権限を有するかどうかについて、保健福祉省が精査すると答えた。
(Hyonhee Shin記者、 Hyeyeon Kim記者)
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