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焦点親世代が築いた世界の工場中国子にバトン渡せるか - ロイター (Reuters Japan)

[瑞昌(中国) 19日 ロイター] - スティーブン・デュー氏(29)は、両親が上海で経営していた温度制御システム製造工場を引き継いだ。デュー氏が最初に着手した改革の1つは、冬季に工場の暖房を稼働させることだった。倹約家の両親は、それさえちゅうちょしていたのだ。

 6月19日、労働人口の減少と高齢化、東南アジア諸国やインド、その他の国との競争により、中国の産業基盤の少なくとも3分の1、つまりローエンドの製造業は時代遅れになりつつあるというのが中国の研究者らの見立てだ。写真は中国・瑞昌にある工場で、卵をパッケージする労働者ら。5月30日撮影(2023年 ロイター/David Kirton)

「労働環境を改善しなければ従業員は気持ちよく働けないし、ベストを尽くすのも難しくなる」とデュー氏は言う。「コストはかかるが、その価値はある」

デュー氏のように、中国の工場を率いる若いリーダーは何万人もいる。彼らが引き継いだのは、基本的な製造事業だが、かつて中国を世界最大の製品輸出国へと変貌させた労働集約型の事業モデルにはもはや頼れない。

労働人口の減少と高齢化、東南アジア諸国やインド、その他の国との競争により、中国の産業基盤の少なくとも3分の1、つまりローエンドの製造業は時代遅れになりつつあるというのが中国の研究者らの見立てだ。

新たな技術を導入し現実的な改革を進めるという、選択の余地なき任務を担うのは、もっぱら20-30代の経営者たちだ。彼らは、甘やかされて育った富裕層の子女を指す蔑称「富二代」をもじって、「廠二代」と呼ばれている。

「もし私が廠二代だったら、今は家族経営の事業が倒産しないように努力しているところだろう」と語るのは、深セン高品質開発・新構造研究所で研究アシスタントを務めるチャン・ジーペン氏。同氏の試算では、この年齢層のうち約4万5000-10万人が、今さまざまな段階で、中国の民間製造企業の最大3分の1を引き継ぎつつあるという。

中国の成長予測に陰りが見える中で進んでいる大規模な世代交代は、毛沢東の死後数十年で「廠二代」の親世代が工場経営者として台頭して以来初めて、中国の民間セクターが経験するものだ。

ロイターは「廠二代」の8人に取材した。彼らは、自分たちが試みているのは効率改善によって家族経営ビジネスを現代にふさわしい姿に変えていくことだと述べつつ、人件費の上昇、人手不足、そして場合によっては最善の改革に対して親族の同意が得られないといった課題に悩まされている、と話す。

冒頭のデュー氏は、セミリタイアした両親のプライバシーを守るために会社の名前を出さないことを条件に取材に応じた。両親は50代で、工場経営はほぼデュー氏に任せきりだという。

デュー氏も同世代の人々と同じく、両親が夢にも見なかったような豊かでチャンスの多い条件の下で育ってきた。

ニュージーランドの高校・大学に通い、電気工学を専攻した。米国に渡り、アップルのサプライヤーであるフォックスコンのウィスコンシン工場で働いた。台湾や日本の製造手法を学び、非効率性の削減に注力した。

国営として1951年に設立され、2002年に民営化された工場では、こうしたスキルが力を発揮する。

父親のビジネス面での才覚と母親の勤勉さにより、一家の工場は国内家電大手のサプライヤーの座を確保した。ショッピングモールやサーバー室、バッテリーの冷却や医療機器で用いられる温度制御システム用の部品も出荷している。

だが、2019年にデュー氏が経営を引き継ぐまで、製造プロセスはほぼ旧態依然だった。同氏はそれまでは手作業で処理していた経理、受注処理、調達、納品その他のプロセスを統括する専門的な産業用ソフトウェアを導入した。

また、フォークリフトが動き回りやすいように工場内のレイアウトを変更し、平均年齢50歳の従業員の身体的な負担を最小限に抑えるため、倉庫部門と製造部門では異なるグループ分けを導入した。複雑な業務を完了するために1人の従業員が歩く距離は、これまでの1キロから300メートルへと短縮され、所要時間も3分の1以下で済むようになった。

母親は製造工程を細かく管理するために長時間働いていたが、デュー氏はたいてい午後4時頃には仕事を終え、工場内に設置して従業員にも開放しているスポーツジムでトレーニングし、車を運転して帰宅する。

「若い世代はもっと楽をしたいと考えるが、怠惰さは実は進歩の現れなんだ」とデュー氏は言う。

過去3年間で賃金も10-20%引き上げ、離職率は5%以下だ。それでも、この工場の効率を50%は改善できたとデュー氏は言う。

前述の研究者チャン氏は、「工場はハイエンドの製造分野への移行を求められており、それができなければ失敗する。コストが上昇しているからだ」と語る。

<親とともに改革を>

チャン・ジチン氏(30)は、中国南東部の都市瑞昌で卵製品工場を経営している。両親との共同経営を始めて以来、工程のデジタル化によって、やはり同じような効率改善を達成できたと考えている。

瑞昌市溢香農産品有限公司では、緑の制服を着用した従業員らが、真空包装機へとつながるベルトコンベアーに装着されたカップに鴨卵を置いていく。機械の上方にある真新しいスクリーンには、卵が包装されるスピードと、従業員1人あたりの平均処理量、そして1万個の卵を包装するために必要な時間と労働力の推計値が表示されている。

農場から工場、店舗へと流れるすべての製品がバーコードで追跡され、管理者は注文、生産、そして納品をスマートフォンで確認し、リアルタイムのデータに基づいて判断を下すことができる。

「以前はすべて手作業で、紙ベースで記録していた」とチャン氏は言う。「社内のデータはどれもゴチャゴチャで、大量の廃棄につながっていた」

ロイターの取材に応じた他の「廠二代」5人と同様に、チャン氏も工場を親から継ぐつもりなどまったくなかった。フランスで景観デザインの勉強をしたいと思っていたからだ。

だがチャン氏は、少なくとも2-3年は関わる必要があると感じ、現在55歳の両親に、最新テクノロジーを導入し、電子商取引サイト上で新たな販路を開拓することは投資に見合う価値があると説得した。

何か手を打たなければならない、とチャン氏は考えた。「現場の従業員は高齢化しているし、若い人たちは現場で働きたがらなくなっている」からだ。中国では若年層失業率が過去最高となっているが、その多くは大学卒で、学歴に見合わない仕事に就くとしても、できれば工場では働きたくないと考えている。

両親は、すでに順調であると感じていたビジネスへの追加投資に消極的で、最初は抵抗した。だが最終的には納得してくれた。

チャン氏が経営に参加してから、売上高は年35%のペースで成長している。

チャン氏は言う。「ときどき、よそはオンライン販売で失敗しているのに、どうしてウチは成功したのかと不思議に思う。ある会社の経営者が私に言ってくれたのは、君の母親のおかげだ、と。たとえ失敗しても、母が私をどこまでもサポートしてくれる、と」

<「あまりにも大変」>

もちろん中国全体では、デュー氏やチャン氏のような若手工場経営者が実行しているような改革に比べ、もっと本格的な形で大規模工場の刷新が進んでいる。

大量のロボットが導入された電気自動車産業など一部のセグメントは、政府からの補助金、さらには外国からの資本やノウハウの力を借りて、グローバル市場を席巻しつつある。

だが、ロイターの取材に応じた産業界の専門家2人によれば、世界の製造業に占める中国のシェアを維持するうえでは底上げも大切で、「廠二代」はそこに貢献しているという。

チャン氏が導入したテクノロジーの一部は、周宇翔氏(34)が創業した黒湖科技によるものだ。同社の顧客には、「廠二代」経営者が1000人以上いる。

「ここ数十年、国内工場の多くのビジネスモデルは収益成長がベースになっていた。だから、生産効率やデジタル化に関心を払うところは非常に少なかった」と周氏は言う。同氏は両親の事業を継いだわけではないが、自分も「廠二代」の1人だと考えている。

「私たちの親の世代は、たいてい、山のような書類を介して事業を経営していた。多少進んだ工場ではエクセルを使っていたが、その程度だ」

政府系シンクタンクの科学技術革新研究所で製造業の革新を専門とする研究者のティアン・ウェイファ氏は、「廠二代」はテクノロジーに精通しており、外国での経験もあることから、コスト上昇、国外需要の減少、中国よりコストの低い開発途上国における製造拠点の台頭といった新たな環境においては、親の世代よりも競争力を維持できる可能性が高くなっている、と話す。

だがティアン氏は、「テクノロジーを刷新するだけですべて解決とは行かない」と述べ、製品の刷新も含め、さらに踏み込む必要があるだろうと続ける。

「廠二代」全員が成功するわけではない。

チャン・イン氏(29)はロンドン芸術大学でテキスタイルデザインを学び、2017年に中国東部の寧波市にある家族経営の衣料品工場を継いだ。

だが、経営は苦しい。10年間で賃金を2倍以上に引き上げ月7000元としたが、内陸部の出身者を中心とする労働力は不足しており、解雇することもできない。

昨年、チャン氏は出産のために休職し、他の経営幹部に事業を任せた。経営の場に戻る気持ちはない。

「あまりにも大変だった。唐突に大きなプレッシャーがかかった。ストレスでじんましんが出て、1年間投薬を受ける必要があった。だから、仕事を離れた」とチャン氏は語った。

(翻訳:エァクレーレン)

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