【ロンドン】英国の公衆衛生当局者は当惑していた。全面的なロックダウン(都市封鎖)導入で、11月下旬頃までには国内大半の地域で新型コロナウイルスをほぼ封じ込めていたにもかかわらず、不可解なことに、英南東部のある地域では感染者が急増していたためだ。
1人の発症者から多数に感染が広がる「スーパースプレッダー」イベントか、職場でソーシャルディスタンス(対人距離の確保)規定を無視したか、違法なホームパーティーで人が集まっていたか――調査に乗り出した疫学者らは当初、こうした予想を立てていた。だが、そのいずれの事例も発見されなかった。行き詰まった疫病学者は、ウイルスのゲノム変異を分析する科学者チームに協力を依頼した。
12月8日、「COVID-19ゲノミクスUKコンソーシアム」と呼ばれるグループがコロナ変異種を発見。9月下旬に発生した感染拡大の中心地からほど近いケント州で患者の検体から、23の変異が見つかった。翌日には、ロンドンで検査を受けた患者からも同じ変異種が確認された。
ケンブリッジ大学の微生物学者で、同グループを率いるシャロン・ピーコック氏は「ゲノムデータやケントでの感染拡大の詳細を総合することで、重要な発見につながった」と話す。科学者にとって「ひらめきの瞬間」だったという。
その後も新たな情報が集まり、14日には英政府が変異種に関して初めて懸念を表明。マット・ハンコック保健相はその日、議会に対して、ロンドンおよび南東部で1000人が変異種に感染しており、急速に広がっていると明らかにした。
ウイルスは常に変異するが、新型コロナはインフルエンザなど他の一般的なウイルスと比べると、その速度は遅い。コロナ変異種で特に目を引くのが、ウイルスの元となるタンパク質を製造するアミノ酸の遺伝情報に対し、通常を上回る数の変異が影響を与えている点だ。
変異の1つは、スパイクタンパク質に変更を加えることで、ウイルスが細胞壁に接着しやすく、そして体内に侵入しやすくした。他の2つの変異もあわせ、従来のウイルス種よりも感染力が強い可能性がある。
今回初めて発見された変異種に関して、科学者らは変異の数とその特性は前例のないものだと話している。
発見された当時、ロンドンの感染者の62%が変異種による感染だった。その後も変異種による感染が急激に広がっている。
英国全体の直近の感染者データによると、23日までの7日間平均は前週比61%増となっている。欧州諸国の大半では感染者数が減少しているにもかかわらずだ。ウイルス感染に遅行して現れる入院数や死者数は、それぞれ16%、20%増えている。
英政府の諮問機関で議長を務めるピーター・ホービー氏は23日、議会で、感染急拡大を招いている根本的なメカニズムはまだ完全には解明できていないと述べた。ウイルスの複製スピードが速いことが要因として考えられるが、そうであれば、体内のウイルス量が一段と多くなり、感染力が強まることを意味するという。
もう1つの仮説は、ウイルスとの接触から感染力が生じるまでの期間が短くなり、他人への感染も速まるのではないかというものだ。ホービー氏は「もしくは感染力のある期間が長くなることもあり得る」としている。
研究者らの目下の焦点は、変異種によって病状がより深刻になるのか、開発されているワクチンの予防効果が失われるかどうかの2点だ。
英国の科学者は、現時点でそのいずれの問いにもはっきり答えるだけの十分な証拠は得られていないが、分析に全力で取り組んでいるとしている。
ワクチンに関しては、変異種に対するワクチン接種を受けた人の血液サンプルを使って、既存のウイルス種によって誘発された場合と異なる反応を示すかを調べている。
米ファイザー・独ビオンテックのワクチン開発者や科学者の間では、ワクチンはウイルスのさまざまな部分を攻撃する抗体を作り出すため、小さな部分で変化が起きても、ワクチンの効果が全くなくなる公算は小さいとの見方が大勢だ。
変異種による病状の程度については、さらなる手掛かりを求め、感染者データから遅れて現れる入院数や死者数の動向が今後どうなるかに注目が集まっている。
こうした中、英国内ではここ数週間、「ゼロ号患者」の特定も進められている。
仮説の1つとして、欠陥のある免疫系を持つ人から変異種が生まれたのではないかとの説が出ている。免疫系に欠陥があると、ウイルスがその中で長く生きのびることができるため、大量の変異を起こす温床になることが多い。
前出のピーコック氏は、「発端患者が誰か特定できるのが理想的な状況だ」とした上で、「これが英国内の患者から発生したのか、外部から持ち込まれたのか、われわれは全く分かっていない。現時点で断定することはできない」と述べる。
その後のデータなどから、英国の科学者は、変異種が従来種よりも速いスピードで再生できるとの確信を強めている。一部の推計モデルによると、感染力が50~70%も高い可能性があることが示された。
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