
* * * 「アメリカ合衆国にとって悲惨な日だった。そして、その責任は全面的にドナルド・トランプにある」 トランプ政権の前国家安全保障担当補佐官、ジョン・ボルトン氏(72)は1月14日、オンラインでアエラの緊急インタビューに応じて、こう断じた。半世紀以上にわたる根っからの共和党員で、トランプ氏と対立して補佐官を2019年に辞任し、共和党の将来を憂えるボルトン氏。6日に起こったトランプ支持者らによる米連邦議会議事堂襲撃事件は、彼の目にはどう映ったのだろうか。 ひるがえる青い「トランプ2020」の旗。トランプ大統領のトレードマークである赤い「メイク・アメリカ・グレイト・アゲイン(MAGA)」キャップをかぶる人の山。マスクを着けず、鉄製バリケードを梯子(はしご)のように塀に立てかけ、続々と連邦議会議事堂の敷地に侵入するトランプ支持者たち。1月20日に開かれる、バイデン次期大統領の就任宣誓式のために組み立てられた式場を、数千人の“MAGAピープル”が埋め尽くした。 ■承認プロセス遅らせる 6日午後(米東部時間)、バイデン氏が大統領選挙で獲得した選挙人の数を承認し、彼の勝利を確認する上下両院合同会議が開かれていた議事堂内に、銃器を掲げたトランプ支持者らが窓を割って侵入した。その日の昼過ぎ、トランプ氏が支持者らを前に、ホワイトハウス付近で開かれた集会でこう言った直後のことだった。 「大統領選挙は、(民主党に)盗まれた。(合同会議が開かれている)議事堂に向かって行進しよう。そこで会おう」 ボルトン氏はその日、自宅でニュースを見ていて事態を知ったという。そしてこう指摘する。
「大統領は、明らかに暴徒が、議会の(バイデン氏)承認プロセスを中断させ、遅らせることを意図していた」 「議会で承認されるのを見たくないから、承認させない障害にするために支持者たちを利用したのだと思う」 議会への不法侵入が、普通の市民や世界中の人びとを驚かせたのは、暴徒らが自国のアメリカ合衆国憲法を不遜にもないがしろにしたという事実だ。憲法が議会に対し、大統領選挙の勝者を公式に承認することを定め、議会はそれを遂行しようとしていた。つまりは、憲法と議会政治、その根本にある民主主義に対する冒涜(ぼうとく)でもある。弁護士でもあるボルトン氏はこう指摘する。 「暴徒がみな憲法学者というわけではない。彼らは、大統領が『やってもいいんだ』と言ったのを聞いた。だからこそ、トランプ自身に、支持者らを(そうした)行動に差し向ける策略があったのだと思う」 襲撃事件は一転、首都ワシントンを混乱から反撃へと向かわせた。一度は議事を中断し、議事堂の地下通路を使って避難したり、あるいは執務室にこもったりした議員らを突き動かした。ナンシー・ペロシ下院議長(民主党)が率いる下院は13日、トランプ氏に対する弾劾(だんがい)訴追の手続きを賛成多数で可決した。上院で3分の2以上の賛成多数が得られれば、大統領を罷免(ひめん)することができる弾劾訴追の手続きを在任中に2度も受けるのは、トランプ氏が初となる。 (ジャーナリスト・津山恵子(ニューヨーク)) ※AERA 2021年1月25日号より抜粋
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