【ワシントン=黒瀬悦成】米下院民主党は11日、共和党のトランプ大統領が支持者を扇動して連邦議会議事堂の襲撃・占拠事件を引き起こしたとして弾劾訴追に乗り出した。下院では一部の共和党議員が賛意を示す一方、党内部では2年後の中間選挙をにらみ、トランプ氏の支持勢力をつなぎ止める思惑から弾劾に慎重論も根強い。弾劾を機に党派対立が一層深まれば、バイデン次期大統領の政権運営にも悪影響を及ぼすのは必至で、バイデン氏は難しい判断を迫られている。
民主党は、弾劾訴追決議案(起訴状に相当)を13日にも可決させるのに先立ち、ペンス副大統領に憲法修正25条に基づいてトランプ氏を解任するよう求めている。だが、ペンス氏は11日現在、解任に応じる態度を示していない。
民主党は、国内勢力が連邦議事堂を襲撃するという米憲政史上前代未聞の事態を招いた責任はトランプ氏にあるとして、徹底追及する構えを強めている。民主党には、議会に対するさらなる「反乱行為」を抑止するとともに、トランプ氏の政治生命を絶つ思惑があるとみられている。
共和党でも、大統領選の敗北を認めず、「選挙に不正があった」と具体的根拠のない主張を展開して支持勢力を煽(あお)り、議事堂襲撃に道を開いたトランプ氏および「トランプイズム」と決別するべきだとの意見は少なくない。
下院共和党では、キンジンガー議員らが弾劾訴追に賛成の意向を表明済みだ。ただ、下院共和党トップのマッカーシー院内総務は弾劾訴追に反対の意向を表明したほか、共和党議員の中には「弾劾に踏み切れば党派間の緊張が高まり、再び暴力行為の標的となる」と懸念する声も強い。
2022年の中間選挙でトランプ氏の支持勢力が、弾劾訴追に賛成した議員に対抗馬を立てて追い落としを図ることも考え得る。
一方、バイデン氏としては、民主党があくまで弾劾訴追を目指した場合、バイデン氏が重視する新型コロナウイルス対策や気候変動対策、景気浮揚などの政策遂行に必要な超党派の協力が見込めなくなる。
ただ、バイデン氏がトランプ氏に融和的な態度を取れば、民主党の若手急進左派の議員などから突き上げを受けるのは必至で、党内の結束にこれまで以上にほころびが出かねない。
トランプ氏が逆襲を図る可能性も指摘されている。
米紙ニューヨーク・タイムズによると、トランプ氏は7日に発表した事実上の「敗北宣言」とされる動画で、議事堂襲撃を「憎むべき攻撃だ」と非難したことを後悔しているとされる。
トランプ氏は12日、南部テキサス州サンアントニオで演説する予定で、支持者に改めて決起を呼びかける恐れもある。
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