- カブール国際空港のテロで「イスラーム国」ホラサン支部(IS-K)は13人の米軍関係者を含む110人以上を殺害した。
- IS-Kはタリバンの‘不倶戴天の敵’であり、タリバンもテロを非難している。
- IS-Kのテロは、タリバンとの派閥抗争の一環であり、今後さらにエスカレートする懸念がある。
カブール国際空港での自爆テロ実行犯は、「イスラーム過激派」という括りでは同じでも、タリバンとは犬猿の仲で、その派閥抗争は今後さらにアフガニスタンでのテロをエスカレートさせるとみられる。。
カブール国際空港の惨劇
アフガニスタンから脱出を目指す人々が集まるカブール国際空港で26日、自爆テロが発生して110人以上が殺害された。
そのなかには13人の米軍関係者も含まれていた。米軍関係者がアフガンで一度に死亡した人数としては、2011年にヘリコプターが撃墜されて30人の犠牲者を出した事件に次いで多い。
テロ攻撃を受けたTV演説で、バイデン大統領は「犯人を追い詰め、償わせる」と語気を強め、軍による警備を強化したうえでアメリカ人や協力者の脱出を継続すると強調した。
この自爆テロに関しては、過激派組織「イスラーム国(IS)」ホラサン支部(IS-K)が犯行声明を出している。IS-Kとは何者か。
アフガンでも屈指の凶暴さ
その名の通り、IS-Kとはホラサン(イラン北東部から中央アジアにかけてを指す歴史的な呼称)地方におけるISの支部だ。
2014年にシリアとイラクにまたがる領域で「建国」を宣言したISは、歴史上のイスラーム王朝が支配した中東から北アフリカ、ヨーロッパ南部、中央アジア、東南アジアや中国の一部にかけて領土を広げる計画を発表し、これに応じてIS支持者が各地で「支部」を名乗った。IS-Kはそのうちの一つである。
IS-Kは2000人程度のメンバーを抱えているとみられ、数万人を抱えるタリバンと比べても小さいが、過激派の多いアフガンでもとりわけ凶暴な組織として知られてきた。昨年5月には、カブールの産院が襲撃され、母親や新生児を含む24人が殺害された。
そのテロ活動は今年に入ってから増加しており、5月に発表された国連報告によると、IS-Kは2021年の1月〜4月だけで77件の攻撃を行なっており、これは去年の3倍のペースにあたる。
タリバンの‘不倶戴天の敵’
IS-Kの基本的な目標はホラサンにイスラーム国家を建設することにある。その意味ではアフガンにイスラーム国家の建設を目指すタリバンに近いようにみられるが、実は全く異なる。それどころか、ニューヨークに拠点をもつコンサルタント、コリン・クラークはIS-Kを「タリバンの‘不倶戴天の敵’」と表現する。
タリバンとIS-Kは何が違うのか。
まず、宗派から。タリバンのメンバーの多くは、イスラームのスンニ派のなかでも、インドやパキスタンなど南アジアに多いデオバンド派に属する。これに対して、IS-Kはイスラームの「本場」であるアラビア半島に多いサラフィー主義の影響が強い。
さらに、「アフガニスタン」の捉え方にも違いがある。タリバンはあくまでアフガン人を中心とする組織で、アフガンにイスラーム国家を建設することを目指す。
これに対して、IS-Kにとってアフガンとは、近代以降の歴史のなかで生まれた国境線に基づくもので、伝統的なイスラーム世界において意味はないと捉える。そのため、ホラサンという古い地理上の概念を持ち出しているのだ。これはタリバンにとって、自分たちの国を乗っ取られることに等しい。
さらに、タリバンはアフガン以外での活動にほとんど関心を持たないが、IS-Kは異教徒に対する「グローバル・ジハード」を掲げる。
こうした違いから、タリバンとIS-Kは「イスラーム過激派」という括りでは同じでも、全く相容れない。いわば「近親憎悪」の結果、IS-Kは2015年にアフガンに登場して以来、米軍だけでなくタリバンともしばしば衝突を繰り返してきた。
そのため、多くのイスラーム過激派はタリバンのカブール制圧を祝福しているが、IS-Kはその限りではない。
なぜIS-Kは空港を狙ったか
今回、アフガン脱出を目指す人でごった返すカブール国際空港をIS-Kが狙ったのは、タリバンとの派閥抗争の結果といえる。
IS-Kの観点からいうと、タリバンは「ぬるい」。徹底してアメリカと戦うことを叫ぶIS-Kからすれば、タリバンがアメリカと和平合意を結んだこと自体、「敵と妥協した」となる。
「敵との妥協」はコーランで戒められている。これを拠り所に、IS-Kはタリバンを「裏切り者」と位置づける。
タリバンも米軍協力者のアフガン脱出を引き止めようとしているが、実質的なアクションはほとんどない。そのなかでIS-Kが多くのアメリカ人を含む死者を出すテロを起こしたことは、タリバンと比べた自らの正統性を過激派予備軍にアピールするものだ。
世界の耳目を集めるテロ活動は、参加者をリクルートするための、イスラーム過激派の常套手段である。
先述のように、IS-Kは米軍だけでなくタリバンとも戦闘を重ねてきた。その結果、アフガン国内におけるIS-Kの支配地域は縮小している。
いわばIS-Kはタリバンに対する劣勢を挽回するため、あえてカブール国際空港を狙ったとみられる。そのため、アメリカや多くの国と同様、タリバンもこのテロを非難している。
タリバンにとってのIS-K
こうしたIS-Kはタリバンにとって、「面倒ごとを引き起こす連中」であることは間違いない。
タリバンにしてみれば、アフガン人の米軍協力者はともかく、アメリカ人を標的にすれば、アメリカ撤退のスケジュールに支障をきたしかねない。1日も早く正統な政府としての認知を得たいタリバンにとって、「国内の治安に不安がある」とみなされること自体、喜ばしい話ではない。
ただし、その一方で、外国人を標的にしたIS-Kの無差別テロがエスカレートすれば、「タリバンの方がまだマシ」という見方を集める手段にもなる。それは「アフガンの治安回復のためにはタリバン政権を認めて支援するしかない」という国際世論の土台にもなる。その意味では、タリバンにとってIS-Kは「ナントカとハサミは使いよう」ともなる。
いずれに転ぶにせよ、タリバンが一朝一夕にIS-Kを排除できない以上、今後ともIS-Kによるテロ活動は増えこそすれ減ることはないとみられる。それがタリバン復権後のアフガンをさらなる混沌に引き摺り込むことだけは確かなのである。
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