2020年12月、世界各地でファイザー社とBioNTech社が開発したワクチンの接種がはじまった。
REUTERS/Johanna Geron
いまだに世界を悩ませ続けている、新型コロナウイルス。
2020年12月には、ついにアメリカの製薬企業ファイザーやモデルナが開発したワクチンの接種が始まった。日本国内でも、ファイザーのワクチンの承認申請が始まっている。早ければ2021年3月頃から接種が開始されるとも報道されている。
国内での感染者の増加が止まらない中、ワクチンの接種までの道筋が見えてきたことは、今後における大きな希望だ。
国立感染症研究所の脇田隆字所長に、ワクチンの登場によって、2021年に新型コロナウイルスへの対応がどう変わっていくのか、話を聞いた。
※取材は2020年12月16日に行われており、その時点の情報に基づく。イギリスにおける変異株に関しては、後日別途回答を得た。
待望のワクチン、どれくらい打てば感染を抑制できるのか?
国立感染症研究所の脇田隆字所長。
撮影:三ツ村崇志
ワクチンの登場によって期待されるのは、多くの人が新型コロナウイルスに対する免役をもつことで、集団の中でウイルスが広がりにくくなる「集団免疫」を獲得することだ。
では、いったいどの程度の人がワクチンを接種すれば、日本国内における集団免疫が成り立つのか。
「理論的には6割ぐらいの方(※)が接種をしていただいた段階だと思っています。既にコロナに感染して免疫を持ってる人は全体の1%に満たないので、結局それくらいの規模の方に打たないといけません」(脇田所長)
※この割合は、一人の感染者から感染が広がる人数(基本再生算数)が大きければ、その分高くなる。つまりたくさんの人にワクチンを接種しなければならなくなる。
ワクチンの接種は、医療従事者や高齢者といったリスクの高い方が優先される予定。一般の人が接種できるようになるのは、その後だ。なお、厚生労働省の資料によると、「令和3(2021)年前半までに全国民に提供できる数量を確保することを目指す」としている。
若者は新型コロナウイルスに感染しても、比較的軽症で済むケースが多いとされる。果たして、ワクチンを接種する必要はあるのだろうか。
脇田所長は、
「若い人も含めて、一般の人たちにもなるべく多く接種してもらうことが、社会全体でこの感染症を落ち着かせることにつながると思います」
と、コロナの終息には、医療従事者や高齢者だけではなく、やはり若い世代を含めた多くの人にワクチンを接種する必要があると話す。
ワクチン接種に向けた懸念は?
ファイザーが開発したワクチンは、日本での接種に向けて承認申請が出されている。ファイザーの報告では、1回目または2回目の接種後に2%以上の頻度で発現したグレード3(重度)の有害事象(ワクチンとの因果関係の有無を問わず生じた現象)は、疲労(3.8%)や頭痛(2.0%)程度だった。
撮影:三ツ村崇志
ワクチン接種開始に向けて、脇田所長はワクチン接種を拒む、「反ワクチン」や「ワクチン忌避」という考え方の広がりに対して懸念を抱いている。
「日本で『ワクチン忌避』のような動きが広がってしまうと、この感染症をコントロールすることは難しくなると思います。そういう意味で、メディアはもちろん、専門家側もきちんとメッセージを出さないといけないと思います」(脇田所長)
ワクチンに副反応はつきものだ。
新型コロナウイルスのワクチン開発は、これまでに比べて早いペースで進んでおり、安全性に不安を感じる人は多いかも知れない。ただし、提供を開始したファイザーのワクチンでは、数万人規模での治験が実施されている。その中である程度安全性が評価され、大きな問題がないことから各国で接種が始まっている。
万が一、大規模に接種を行う中で何か重大な反応があったときには、それが本当にワクチンの効果によるか、それともワクチンとは因果関係のない出来事なのか、慎重かつ早急に判断しなければならない。
日本における、病死や事故死などを含めた年間総死亡者数は、100万人以上にのぼる。
日本では死亡リスクの高い高齢者からワクチンの接種を開始する以上、極端な話、ワクチンを接種した後に、不幸にも偶然亡くなってしまう人が現れることは可能性としては十分にありえる。
脇田所長は、そういったときに専門家が十分に分析をして、できる限り早く、正しいメッセージを伝えていくことが重要だという。また報道するメディア側も、因果関係がはっきりとしない状況で、専門家からの見解を待たずに、安易に「ワクチンを接種した患者が死亡した」などと、ワクチンに対する過度な不安を煽るような報道は慎むべきだ。
ワクチンに関連する情報の透明性が、今後重要なポイントになるといえる。
懸念されるウイルスの「変異」
電子顕微鏡で撮影した新型コロナウイルス。
出典:国立感染症研究所
一方で、新型コロナウイルスの流行拡大に伴い、ウイルスが変異して、ワクチンの効き目が薄くなることを懸念する人もいる。
新型コロナウイルスは、2週間に一つ程度、遺伝子が変異するとされている。
一見ひんぱんに変異しているように思えるかもしれないが、インフルエンザウイルスなどと比べると、コロナウイルスは非常に変異しにくいウイルスだといえる。
脇田所長は、(12月16日段階で)ウイルスの変異とワクチンの効果について、
「一部、ワクチンの標的になってる場所に変異は入っているのですが、今のところ、そのワクチンの効果に影響を及ぼすような変異ではなさそうです。
ワクチンの標的になっている部位は、ウイルスが感染するために重要な場所です。そこに重大な変異が起きてしまうと、むしろ感染性が悪くなって感染できなくなってしまう可能性もあるわけです」
と語っていた。
また、その後、12月末には、イギリスを中心に感染性がこれまでの約1.7倍にもおよぶ可能性のある変異株(いわゆる変異種と呼ばれているもの)が確認された。国内でも、イギリスからの帰国者から、同様の変異を持つ新型コロナウイルスが確認されている。
イギリスで大流行している、この変異を持った新型コロナウイルスに対するワクチンの効果はどうなるのか。
脇田所長は、まだ判断できる状況ではないとしている。
「イギリスのレポートによるとワクチンへの影響は現時点では不明です。今後の解析に注目しています。また感染研を含め、日本でも分析を進めます」
国立感染症研究所。
撮影:三ツ村崇志
また、ワクチンが登場する以前に、別の不安もある。
一般的に、ワクチンの接種が開始されても、そのワクチンを回避できる変異が起きたウイルスは生き残り、広がっていく可能性が残る。
ウイルスは、細胞内に侵入して、自らの遺伝子をコピーして増殖する。遺伝子の変異は、このときに何らかのエラーによって生じている。
たとえ新型コロナウイルスが変異しにくいウイルスだとしても、感染が広がればその分だけウイルスが増殖し、数が増えていく。そしてその分、変異が起きる確率は高まるのではないだろうか。
脇田所長はこういった懸念について次のように語る。
「確かに、(感染が広がるほど)変異が起きる確率は高くなります。だから、あまり蔓延してしまうとよくないんです。ヨーロッパやアメリカの規模まで感染が増えていくと、そういったリスクという意味ではよくないと思っています」
日本では現在、イギリスなどで流行する変異した新型コロナウイルスの国内への侵入に対して注目が高まっている。それは当然重要なポイントではあるものの、それと同時に、国内での感染の広がりをある程度抑えなければ、国内から自然発生的にたちの悪い変異をしたウイルスが誕生しかねない。
「あまりにも感染者が増えてしまうと、ワクチンを打って集団免疫を作ったとしても、そこから逃れるウイルスが出現する確率を上げてしまうことにもなるので、そういった懸念はあります」(脇田所長)
また、そういった意味で、2021年にワクチンの接種が開始され、仮に感染をある程度抑制する効果が現れてきたとしても、引き続き、ウイルスの変異状況は確認し続けていかなければならない。
東京の人出は、11月から12月にかけて、大きく減っていない。(撮影:2020年11月21日)
撮影:三ツ村崇志
また、ワクチンの効果についても、過度な期待は禁物だ。現状は未知数な部分も多い。
国内では、横浜市立大学の研究で、ウイルスに感染した場合に半年程度抗体をもつということが報告されている。一方、ワクチンで誘導された抗体がどの程度継続するのかは、まだわからない。
この点は、今後のワクチンに関するニュースとして注目しておくべきポイントだ。
また、脇田所長は、たとえワクチンを接種できたとしてもそれ以外の感染対策をおろそかにして良いわけではないと話す。
「感染症対策というのは、ワクチンだけではありません。色々な理由で、ワクチンを打てない人もいるわけですよね。そういう人たちも社会全体で守っていく必要があります。だからこそ、たとえワクチンの接種が始まったとしても、基本的な対策はやはりここ数年は続けていく必要があるんじゃないかと思います」(脇田所長)
2021年、ワクチンの登場によって、一気に収束に向かうことを期待している人も多いかもしれないが、しばらくは生活の近くにコロナウイルスが存在することを覚悟しておかなければならないかもしれない。
ワクチンの接種が開始されたタイミングで社会的に開放ムードが高まり、会食などが一気に活性化して感染が爆発してしまうことだってありうる。
今後、拡大の一途を辿る感染状況をなんとか抑えた上で、段階的に行われるであろうワクチンの接種によって流行を徐々に収束に向かわせるという筋書きが、日本のこの先の感染対策における、一番理想的なシナリオだといえそうだ。
ワクチンの接種がはじまっても、しばらくは感染対策を続ける必要がある。
出典:厚生労働省
(文・三ツ村崇志)
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