待ちに待った北朝鮮との連絡通信網の復元で4度目の南北首脳会談の可能性も視野に入り、浮き浮きしていたのに1週間も経たないうちに韓国政府は北朝鮮から「米軍との合同軍事演習が予定通り強行される可能性があるとの気分の悪い話を聞き続けている」ときつい一発をかまされた。
(参考資料:得意の「掌返し」で急展開の朝鮮半島情勢 北朝鮮の狙いは?)
金正恩総書記の実妹・金与正副部長から「演習を強行すれば、信頼回復の一歩を再び踏み出したいという首脳同士の意志を深く傷つけ、南北関係の前途をさらに曇らせることになるだろう」と釘を刺されたのである。喜びも束の間とはこのことで、「女王蜂」の一刺しに韓国は右往左往している。
(参考資料:有事の際の米韓連合軍の「地上から平壌を完全に消す作戦」)
青瓦台(大統領府)は「これは米韓の問題で、現在米国と協議中であるが、まだ何も決めていない」と平静さを装っているが、安全保障重視の国防部は「予定通り演習を行うべきである」との立場なのに対して、北朝鮮担当部署の統一部は「延期が望ましい」と強硬に主張するなど政府内でも意見が割れ、統一見解を出せないでいる。
政界の反応も複雑だ。
米韓同盟関係の強化を打ち出している最大保守野党「国民の力」が「中止すべきではない」と文政権に強く迫るのは至極当然だが、政権与党「共に民主党」内では延期、中止を求める声が圧倒的だが、肝心の宋永吉代表が「有事作戦統制権の韓国軍への早期移管を実現するためにも、また米韓合同軍事演習は敵対的なものでなく、朝鮮半島平和のための防御的な訓練なので実施すべき」との考えに立つなど中止もしくは延期を求めている同じ進歩派の政党「正義党」のように必ずしも一枚岩ではない。
メディアも同様に賛否両論分かれている。
各紙とも社説でこの問題を取り上げていたが、「反北」代表紙である保守の「朝鮮日報」は「敵が嫌がっているからと言って、訓練を止めようとする国は我が国ぐらいだ。選挙に勝つためには安保が犠牲になってもまじろぎもしない人々」と、この問題で熟考している文政権の対応を痛烈に批判。
同じ保守の「中央日報」も「行き詰った南北関係の打開と非核化交渉再開のため南北対話の再開は必要なことだが、安保体制維持に必須要素である米韓連合演習を取引してはならない」と政府に注文を付けたうえで「規模の縮小や延期は常に北朝鮮の要求に引きずられるだけである。真の対話のためには訓練延期を持ち出すのではなく,逆に北に対して核高度化行為を中止するよう求めるべきである」と「朝鮮日報」以上に強固なスタンスだった。
これに対して「親北」の「ハンギョレ」は「コロナの状況などを考えると、無理にやる必要があるのか?北朝鮮の主張がどうのこうのではなく、現状況下で訓練を強行することに実利があるとは思えない」と延期を主張。
また、中立系の「韓国日報」も「軍事訓練が米韓軍事同盟の中心軸であるが、圧倒的な米韓戦力を勘案すれば、訓練の延期で防衛体制の弱体化を憂慮する水準にはない。南北通信線の再開で対話のムードが復活した現実を勘案すれば、縮小と延期を積極的に検討すべきである」と軍事演習よりも南北対話再開にウェイトを置いていた。
文政権は米韓軍事演習を強行すべきか、延期すべきかの板挟みにあっているが、どちらかと言えば、政府寄りの「ソウル新聞」は「金与正副部長の要求に従い、訓練を延期もしくは中止すれば、『金与正の指示に従った』との批判にさらされ、だからと言って訓練を強行すれば、せっかくの和解の火種が消えてしまうので困り果てた状況にある」と文政権の心中を察していた。
米韓合同軍事演習は予定通りならば、8月15日前後にスタートすることになっているが、ちなみに2012年のロンドン五輪(7月27-8月12日)の時は五輪終了後の8月20日から、2016年のリオ五輪(8月5-21日)の時も五輪終了の翌日(22日)から実施されていた。
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